労働判例 国鉄鹿児島自動車営業所事件

24 業務命令-国鉄鹿児島自動車営業所事件 (最高裁平成5年6月11日判決)

「業務命令」の法理は何か、に対する判示とも言えます。「就業規則に業務命令に服従すべき旨定めているときは、その規定内容が合理的なものであるかぎりにおいて労働契約の内容となる。」の一つの明示とも言えます。

1 事件の概要
 本件バッジを着用したまま点呼執行業務に就くということに対して、懲罰報復等のために行わせることは業務命令権行使の濫用に当たる。二審も同様に、業務命令権の濫用であり違法であって不法行為にあたるとしたが、最高裁は、本件バッジを着用したまま点呼執行業務に就くという違反行為を行おうとしたものに本来の業務から外すこととし降灰除去作業に従事させることとしたものであり、職場管理上やむを得ない措置ということができ、これが殊更にAに対して不利益を課するという違法、不当な目的でされたものであるとは認められない、とされた。

事実の概要
 昭和60年7月23日、Aは点呼執行業務に従事するに当たり、バッジを着用したままこれを行おうとしたため、Yはバッジの取り外し命令を発した。
 Aがこれに従わなかったので、YはAを点呼執行業務からはずし、営業所内に降り積もった火山灰を除去する作業に従事すべき旨の業務命令を発した。これが、同日から8月30日までのうち10日間にわたって続いた。
 Aは、当該火山灰除去作業命令は違法であるとして、Yに対して慰謝料の支払を求めた。

2 地裁・高裁の見解
 一審の鹿児島地裁は、火山灰除去作業は、労働契約上の義務の範囲内に含まれるものであるが、かなりの肉体的苦痛を伴うものであるから合理的理由もなくそれを行わせたり、懲罰報復等のために行わせることは業務命令権行使の濫用に当たる。

 二審の福岡高裁宮崎支部も、一審判断を踏襲し、要旨、次のとおり判決した。
(1) 降灰除去作業は、Aの労働契約上の義務の範囲内に含まれ、業務命令が労働契約に根拠のない作業を命じたものとはいえない
(2) バッジの着用は、職場規律を乱し、職務専念義務に違反するものであるから、Yの取り外し命令及びこれに従わなかったAを点呼執行業務から外した措置には、いずれも合理的な理由がある
(3) 降灰除去作業命令は、Aには運輸管理係としての日常の業務がありことさら命ずべき必然性がなかったのに懲罰的に発せられたものであって、このようにかなりの肉体的、精神的苦痛を伴う作業を懲罰的に行わせることは、業務命令権の濫用であり違法であって不法行為にあたる。

3 最高裁の判決
「原審の前項(3)の、本件各業務命令が違法であってAに対する不法行為にあたるとする判断は、是認することができない。

 前記の事実関係からすると、降灰除去作業は、鹿児島営業所の職場環境を整備して、労務の円滑化、効率化を図るために必要な作業であり、また、その作業内容、作業方法等からしても、社会通念上相当な程度を超える過酷な業務に当たるものともいえず、これがAの労働契約上の義務の範囲内に含まれるものであることは、原判決も判示するとおりである。

 しかも、本件各業務命令は、Aが、Yの取外し命令を無視して、本件バッジを着用したまま点呼執行業務に就くという違反行為を行おうとしたことから、自動車部からの指示に従ってAをその本来の業務から外すこととし、職場規律維持の上で支障が少ないものと考えられる屋外作業である降灰除去作業に従事させることとしたものであり、職場管理上やむを得ない措置ということができ、これが殊更にAに対して不利益を課するという違法、不当な目的でされたものであるとは認められない。

 なお、Yら管理職がAによる作業の状況を監視し、勤務中の他の職員がAに清涼飲料水を渡そうとするのを制止した等の行為も、その管理職としての職責等からして、特に違法あるいは不当視すべきものとも考えられない。
 
 そうすると、本件各業務命令を違法なものとすることは、到底困難なものといわなければならない。」

労働判例 第四銀行事件

23 就業規則の不利益変更と労働条件-第四銀行事件 (最高裁平成9年2月28日)

労働契約法の、就業規則の変更の効力に関して基本となる判例です。この判例を元に労働契約法第9条および第10条ができたものと言われています。秋北バス事件の流れをくむものです。

1 事件の概要

就業規則によって、定年を延長する代わりに給与が減額された事件で、秋北バス事件・大曲市農協事件の最高裁判例を踏襲し、さらに、合理性の有無の判断に当たっての判断要素を具体的に列挙し、その判断要素に照らした上で、就業規則の変更は合理的であるとした。

事実概要

 銀行と銀行労働組合は、定年を55歳から60歳に引き上げる代わりに、給与の減額、特別融資制度の申請等を内容とする労働協約を締結し、55歳以降の年間賃金は54歳時の6割台に減額となり、従来の55歳~58歳までの賃金総額が新定年制の下での55歳~60歳までの賃金総額と同程度になった。

2 判決にあたっての前提と合理性とは


「就業規則が合理的なものである」とは、

 就業規則の作成又は変更が、その必要性及び内容の両面から見て、それによって労働者が被ることになる不利益の程度を考慮しても、なお労使関係における条項の法的規範性を是認できるだけの合理性を有するものである。

特に、賃金、退職金など労働者にとって重要な権利・労働条件に関し、実質的な不利益を及ぼす就業規則の作成又は変更については、当該条項が、そのような不利益を労働者に法的に受忍させることを許容できるだけの高度の必要性に基づいた合理的な内容のものである場合において、その効力を生ずるものというべきである。

この合理性の有無は、具体的には、

・就業規則の変更によって労働者が被る不利益の程度
・使用者側の変更の必要性の内容・程度
・変更後の就業規則の内容自体の相当性
・代償措置その他関連する他の労働条件の改善状況
・労働組合等との交渉の経緯
・他の労働組合又は他の従業員の対応
・同種事項に関するわが国社会における一般的状況等

を総合考慮して判断すべきである。とした。

3 事件を検討すると

定年後在職制度の運用実態をみれば、健康な男子行員が58歳までの定年後、さらに在職をすることができることは確実であり、その間54歳時の賃金水準を以上の労働条件での勤務を期待することも合理的といえる。

そうすると、定年制の実施に伴う就業規則の変更は、直接、既得権利を消滅・減少させるというものではない。しかし、その結果として合理的な期待に反して、55歳以降の年間賃金が54歳時の63~67%となり、定年後在職制度の下で58歳まで勤務して得れるであろう賃金を、60歳定年近くまで勤務しなければ得れなくなることになる。よって、健康な男子行員にとっては実質的にみて、労働条件の不利益変になる。

既得の権利を奪い、労働者に不利益な労働条件を一方的に課することは、原則として許されないが、その実質的な不利益は賃金という労働者にとって重要な労働条件に関するものだから、この就業規則の変更は、これを受忍させることを許容することができるだけの、高度の必要性に基づいた合理的な内容のものでなければならない。

「高度の必要性」具体的には、

・就業規則変更による原告の不利益はかなり大きなものである
・銀行には定年延長の高度の必要性があった
・定年延長に伴う人件費の増大等を抑える経営上の必要から55歳以降の賃金水準を変更する必要性も高度なものであった
・円滑な定年延長の導入の必要等から、55歳以降の労働条件のみを修正したこともやむをえない
・従前の55歳以降の労働条件は既得の権利とまではいえない
・変更後の55歳以降の労働条件の内容は、多くの地方銀行の例とほぼ同様の態様である
・変更後の賃金水準も他行の賃金水準や社会一般の賃金水準と比較して、かなり高いこと
・定年が延長されたことは、女子行員や健康上支障がある男子行員にとっても、60歳まで安定した雇用が確保されるという利益は決して小さいものではない
・福利厚生制度の適用延長や拡充等の措置がとられていること
・就業規則の変更は、行員の90%で組織されている組合との合意を経て労働協約を締結した上で行われたものであること
・変更の内容が統一的かつ画一的に処理すべき労働条件に係るものであること

これらを認定した上で、就業規則による一体的な変更を図ることの必要性及び相当性を肯定することができる。原告労働者にも、変更後の就業規則は効力を生じる。

労働判例 フジ興産事件

22  フジ興産事件(最高裁平成15年10月10日)
労働契約法の、就業規則の変更の効力に関して基本となる判例です。


1 事件の概要

就業規則に基づき労働者を懲戒解雇したが、その行為があった時点では就業規則は周知されていなかった。就業規則が拘束力を生ずるためには、その内容の適用を受ける事業場の労働者に周知されていることが必要だとして、懲戒解雇を有効とした原審を破棄し、差し戻した。

事実概要

得意先の担当者の要望に十分応じず、トラブルを発生させたり、上司の指示に対して反抗的態度をとり、上司に暴言を吐くなどして職場の秩序を乱したため、就業規則の規定どおりに懲戒解雇処分を受けた。しかし、労働者は懲戒解雇以前に、取締役に対し、勤務先のセンターの就業規則について質問したところ、就業規則が備え付けられていなかった。

2 地裁・高裁の見解

懲戒解雇は有効。労働者の請求をすべて棄却

① 行為があった日に存在していた就業規則に懲戒解雇事由が存するか否かについて見当すべき
② 就業規則は労働基準監督署に届け出ていた事実があり、就業規則が職場に備え付けられていなかったとしても、そのゆえをもって、労働者に効力を有しないと解することはできない
③ 労働者の行為は、旧就業規則に懲戒解雇事由に該当し、懲戒解雇は有効である。

3 最高裁差し戻し理由

原審の2について是認できないと判断。

使用者が労働者を懲戒するには、あらかじめ就業規則において懲戒の種別及び事由を定めておくことを要する。そして、就業規則が法的規範としての性質を有るものとして拘束力を生ずるためには、その内容の適用を受ける事業場の労働者に周知させる手続きが採られていることを要する。

原審は、会社が労働者代表の同意を得て就業規則を制定し、それを労働基準監督署に届け出た事実を確定したのみで、その内容をセンター勤務の労働者に周知させる手続きが採られていることを認定しないまま、就業規則に法的規範としての効力を肯定し、懲戒解雇が有効であると判断している。

この判断には、審理不尽の結果、法令の適用を誤った違法があり、その違法が判決に影響を及ぼすことは明らかである。そこで、原判決を破棄し、この点について更に審理を尽くさせるため、原審に差し戻した。

大阪労働大学報告

少しばかり、時間が空いてしまいました。

今回から、今通学している「大阪労働大学」でのゼミで扱う「労働判例」のまとめをアップしていきたいと思います。
今回は、すでに第3回目になってしまったのですが、

22 就業規則の効力と周知-フジ興産事件

23 就業規則の不利益変更と労働条件-第四銀行事件

24 業務命令-国鉄鹿児島自動車営業所事件

を記入していきたいと思います。

「経営労務監査」セミナーに参加しました!

平成23年10月22日(土)に大野実氏の「経営労務監査」の研修会に参加してきました。
「経営労務監査」とは、聞き慣れない方もいるかも知れません。そうです。私も実のところよくわかっていません。研修会に参加して理解できたのかどうか、そこのところも怪しいところです。


 大きくいうと、監査法人などが、他人の求めに応じ報酬を得て、財務書類の監査又は証明を組織的に行い、企業の企業統制、内部統制としての内部監査を行っているのと同様に、社労士や社労士法人が労務諸表の監査を行い、労務面での企業の企業統制、内部統制としての内部監査を行うことのようです。


 労務診断・労務コンサルタントとは、どのように違うのかという疑問が浮かんできますが、評価の基準(一定の基準設定)でもってお墨付きをとるのが、「経営労務監査」であって誰が行っても同じ結果になるというものです。
 

 なぜ、今「経営労務監査」なのかという疑問も浮かんできます。労務監査というのは、昭和36年頃始まったことのようですが、その頃は誰も見向きもしなかったようですが、現在は、企業の倫理、CSR等、内部統制、経営管理が企業に求められてきたという背景が大きいといえるそうです。企業の成長していくためには、お金だけでなく、人的な面からも企業を評価するとの土壌ができつつあるとのことです。


 そして、社労士が「経営労務監査」に関わる理由として、①社労士の英訳が改正され、労働と社会保障の法律家という位置づけとなったこと②公的契約において労働条件等の適法性を担保することが求められていること③社労士が経営や労務の専門家としての認知が高まっていること等があげられる。


 現状として、①内部監査などにおいて、監査法人と社労士が連携するような状態が始まっていること②行政監督対応やIPO審査対応(株式上場前の監査など)等に経営労務監査が用いられ始めていること等が動き始めている現状にある。


 では、実際に「経営労務監査」はどのようなことを行っていくのかということがあるが、経営労務監査には労務コンプライアンス監査と人材ポートフォリオ監査が必要になる。まず、労務コンプライアンス監査においては、①労働法令の体系において適法か、不適正かの観点の観点で監査②対象とする基本的規程(就業規則や社内方針など)を定め、その内容についの監査が主体となる。


 次に人材ポートフォリオ監査として、①人的資源や人材マネジメント(人事制度、報酬制度、労使制度)②人材配置、経営配置
等の監査を行い、①人材の配置の変動によりどう経営に影響を与えたのか②人員の割合、人件費の動き、をみてどの部分をとらえてどうなってきたのか、望ましい結果なのか③売り上げの規模、人員構成、会社のステージを考えた上で、会社のポジションを考える等の分析評価を行う。


 今後の「経営労務監査」においてどのような課題があるのか。①監査である以上一定の評価基準が必要であり、その基準をどこかの組織が決定する必要があること②評価基準として何をもって適正かの判断が難しいこと③社労士の枠組みを越えて、連携チームを組む必要があること④中小企業にこの仕組みが浸透させることは困難であること等があげられる。


といったセミナーであったと思う。あったと思うというのはおかしなことですが、ちょっと勉強不足のためよくわからないというのが本音であります。実際のところ中小企業にこのようなことが浸透するのか少しばかり疑問になります。

 

プロフィール

sr.hide

Author:sr.hide
兵庫県・神戸市・三宮で開業の
社会保険労務士の佐伯秀樹と申します。

フラッシュ クロック 「幻の庭。曼珠沙華」

『Chris's Crime』

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